まわりから信頼を得るにはどうすればいいのか。ドイツの哲学者ディルタイは「信頼は相手のために払った犠牲の質と量に比例する」と言いましたが、私も同感です。本物の人間とは、言っていることとやっていることが同じ人です。もっともらしいことを言う人はたくさんいますが、口だけではいけません。実際に行動して何か犠牲を払っている相手に、人は信頼を寄せるのです。

私の場合、それが掃除でした。社内はもちろん、会社周辺も掃除します。トイレ掃除では、便器の中の水濾しも取り出してきれいにします。どんなに汚くても、手で徹底的に洗います。そうした積み重ねによって、まわりへの説得力がついてきます。

近所の人から目の敵にされました。しかし、近隣のゴミ拾いをはじめ、駅の改札の外を掃除するうちに、反応が変わった。(中略)掃除を続ける姿には、やはり人の心に響くものがあるのです。

ただ、掃除はあくまでも目的・目標を実現するための方法であることを忘れてはいけません。私は社員にいい人間になってほしい、社会、国をよくしたいという願いを込めて、掃除をしています。このように目的が定かなら、それを実現するための手段・方法は自分の中から湧いてきます。私にとって掃除は、人から押しつけられたものではなく、自分の中から出てきたものだからこそ、辛くても耐えられるのです。

では、目的や目標はどこから生まれるのか。日常でなすべきことをきちんとやれば、自然に見えてくると思います。普段やるべきことをやっていない人が掲げるのは“欲望”です。多くの人が挫折してしまうのも、自分の欲望を目的・目標と勘違いしているからではないでしょうか。

ただ、掃除をすればすぐにいい影響が出るというほど甘くありません。教育の神様といわれた森信三先生は、「教育とは流れる水の上に文字を書くような儚いものだ。だが、それを岸壁に刻み込むような真剣さで取り組まなくてはいけない」と言っています。掃除のすばらしさも、簡単には伝わりません。辛抱をして、粘り強くやっていくことが肝要です。

(鍵山秀三郎、イエローハット創業者)



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