マナーや礼儀は、若手サラリーマンにとって基本中の基本ですが、実は落語の世界でも非常に重要視されます。それですべてが判断されてしまうといってもいいくらいで、だから師匠には徹底的に教育されました。とにかく、挨拶。大きな声で、ハッキリと、「おはようございます!」といえと。礼状も必ず書くよう指導されました。
マナーや礼儀は、柔道の受け身みたいなもの。ケガをしないように、技を習う前に学ぶ作法のようなものなのです。元ヤクザで俳優の安藤昇さんは、「相手に敵意がないことを示すのが礼儀だ」ともいっています。ヤクザの世界は命がけですが、それは落語家やサラリーマンも同じ。そうすれば、いらない敵をつくらなくて済みます。


また、入門して最初に師匠にいわれたのが、「俺を快適にしろ」という言葉です。続いて、「不合理、矛盾に耐えること。それが修業」だとも。
いまだからいえることですが、「人間は無茶ぶりでしか進歩しない」というのが私の持論です。サラリーマンも同じではないでしょうか。特に20代の若手は、先輩や上司から厳しく指導されます。営業なら、到底ムリと思えるような売り上げノルマを課せられることもある。私もサラリーマン時代にそういう経験を数多くしました。落語の徒弟制度と会社組織を同列には論じられませんが、私は先輩や上司からの無茶ぶりは積極的に受けるべきだと思います。
(中略))
しかし、気持ちを切り換えて、倍やることにしました。「3曲覚えろ」といわれたら、6曲覚える。昇進基準にないタップダンスを身につけたりもしました。そうすることで主体的になれる。つまり、主導権が握れます。
上司に「売り上げが低い、あと100万円増やせ」といわれたとします。そこで200万円アップしたら、上司より優位に立てるわけです。「100社回ってこい」といわれたら、150社回る。私は講演で「無茶ぶりに対しては、テニスでいうリターンエースを狙え」とよく話します。相手のサーブを受けられないようなところに打ち返す。そうすれば主導権を握れます。


とはいえ、いくら頑張っても結果がすべてです。談志はよく、「現実が事実だ」といっていました。そして「評価は他人がするものだ」とも。私も「おまえが頑張っているのはわかっているが、結果が出てないじゃねえか」と何度いわれたことか。周りはどう評価しているのか、その現実が事実なんです。

 


1. 敵意がないことを示すのが礼儀
ケガをしないよう、技の前に学ぶ「受け身」と心得る

2. 無茶ぶりには「倍返し」でリターンエースを狙う
上司の要求以上のことをして、主導権を奪い取る

3. 「現実が事実」とわきまえる
自分の評価は他人がするもので、その現実を素直に受け止める

 

(立川談慶、落語家、PRESIDENT 2016年5月2日号)

 

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